行動を促すためのヒント~プロンプト~

 子どもが新しいことを学習する筋道は、ごく簡単に言うと次のような流れになっています。

 ① 指導者が指示(新しい学習内容)を提示する
 ② 子どもが正しく答える(正反応する)
 ③ 指導者から褒められる(強化される)
 ④ 子どもはますます“やる気”になる

 このような段階を経れば、敢えて何もしなくても子どもは学ぶかもしれませんが、そういう試行錯誤(try and error)によって学ぶやり方は非常にゆっくりとしたプロセスになります。
 そこで、正反応を効率的に導くために、行動(正反応)の自発を促進する目的で環境的・人的支援としてのヒントや手助けを与える必要があるのです。これが「プロンプト」(お助けヒント)の意義なのです。

 実はプロンプトは意識せずに日常的に行っていることが多く、例えばヒントの多い人・少ない人などプロンプトの与え方にも個性が出てしまい、これらの癖が逆に子どもの学習や自発性を損なってしまうこともあり得るのです。従って、プロンプトは意識的に行っていくことが大切になります。

 さて、プロンプトには大きく分けて二種類のものがあります。それは「刺激プロンプト」と「反応プロンプト」と呼ばれるものです。

▶刺激プロンプト…刺激を変化(追加、撤去)させる環境的なもの。例として…
 ・これからする活動を絵やスケジュール表にする
 ・玩具をしまうべき所をシールで目立たせる
 ・文章題のキーになる場所に下線を引く…など

▶反応プロンプト…他者によって行われる行動。例として…
 ・声かけ
 ・身振り
 ・モデリング(見本を見せる)
 ・身体的誘導(手を添えて教える)…など

 刺激プロンプトの基本は「視覚的にわかりやすくする」ことです。例えば…

例①)プッシュ式液体石鹸を1回だけ押すように言っても守れない子どもに対して→押す場所に「1かい」と書いたシールを貼る
例②)絵カードの抽象度が高くて子どもにわかりにくい場合→お菓子のパッケージや空箱をそのままカードにする
例③)写真カードで背景が映り込んでいてわかりにくい場合→対象物だけをカードにする

 反応プロンプトも「わかりやすくする」ことが基本です。例えば、声かけの仕方にも大きく分けて次の二種類がありますが…

▶間接言語プロンプト…行動の始発を促すもの。例えば…
 ・「さあ、どうぞ」
 ・「次は何するのかな?」

▶直接言語プロンプト…具体的な行動のヒントを出すもの。例えば…
 ・「歯ブラシ持って」
 ・「シャカシャカして」

 この二つを比べると、プロンプトの強さのレベルは「直接>間接」ということになります。

 また、身振りプロンプトでも、例えば「ジェスチャー」と「指差し」を比べると、プロンプトの強さのレベルは「ジェスチャー」>「指差し」ということになります。

 モデリングにも二種類の形があります。

▶ライブモデリング…その場でやってみせるもの。
 これはモデルを提示している間、モデルに注目させ、うまく待てるようにするのがコツです。

▶ビデオモデリング…ビデオなどを見せるもの
 調理などその場でやってみせると時間がかかったり、その場で見せていると勝手に自己流でやろうとする場合に適しています。
 ビデオをわかりやすく注目しやすい短いものにする工夫が必要です。

 身体的誘導ですが、子どもに直接触るので、嫌がられないように注意します。例えば、工夫として、触られるのが嫌な子どもの場合は、まず身体遊びなどを十分に活用して、触られることへの嫌悪感をなくしておきます。
 また、移動の場合は手を引っ張るよりも、子どもの斜め後ろに回って前方を指差し、お尻の辺りをガイドしながら緩やかに押します。こうすると嫌悪感が低く、後にプロンプトを除去しやすいのです。
 いずれにしても、ギュッと身体をつかんで誘導するのではなく、子どもの動きを引き出すような、ゆっくりとした穏やかな誘導を心がけることが大切になります。

 さて、ここまでいろいろなプロンプトの種類を示してきましたが、その優劣についてお話しします。
 一般的に「モデリング」の方が「言語プロンプト」より具体的でわかりやすい方法と言えますが、一定時間注意を持続することが苦手な子どもには「身体的誘導」の方が適しているかもしれません。いずれにしても、子どもに適したプロンプトの種類とそのレベルを選択することが大切になります。

 次に、プロンプトの上手な提示の仕方について書きます。プロンプトの提示の仕方には、大きく次の二種類があります。

▶段階的増加法…最初は少ないプロンプトを出して待ち、できなければ徐々にレベルの高いプロンプトを出していくやり方。例えば…
 買い物指導で商品を持ったままじっとしている子どもに対して、最初は「どうするの?」という間接言語プロンプトを出しますが、それでも動かなければ「レジへ行くんだよ」という直接言語プロンプトを出し、それでも動かなければレジの方向へ指差しプロンプトを行います。

▶段階的減少法…最初からレベルの高いプロンプトを使用し、達成が定着していったら徐々にレベルの弱いプロンプトを使っていくやり方。例えば…
 買い物指導の場面で、まず身体的誘導でレジに連れていって、成功させて褒めますが、一定の達成基準に達したら、誘導する距離を徐々に短くしていって、最終的に指差しや言語プロンプトのみに移行していきます。

 結論的に言うと、プロンプトで留意すべきことは次の四点があります。

 ① プロンプト付きで達成しても、子どもを褒めることを忘れないことが大切です。
 ② 少しずつレベルの弱いプロンプトでもできるようにしていきます。
 ③ 最終的にはプロンプトがなくても自発できるようにしていきます。
 ④ 段階的増加法と段階的減少法のどちらがよいかは一人一人異なるので、やってみながら本人に合ったやり方を選択します。


 この②と③に関連して、プロンプトのレベルを下げたり数を減らしていって、最終的にはプロンプトをなくしていくことを「プロンプト・フェーディング」と言って、非常に大切なことになります。
 「プロンプト・フェーディング」を行う際に、急激に行うと失敗するので、記録を取りながら徐々に行うことがコツになります。具体的なプロンプトの減らし方は次のようになります。

▶刺激プロンプトの場合…目立たせた刺激を徐々に減らしていくことが基本です。例えば…
 平仮名の「わ」と「ね」の違いを教える場合に、最初は色を変えたり太くしたりしますが、徐々に色も太さも同じにしていきます。

▶反応プロンプトの場合…子どもに加える力を弱めたり(身体的誘導)、声かけを減らしたり(声かけ)、提示する見本を減らしたりします(モデリング、身振り)。例えば…
 身体的誘導で腕の動きを教える場合に、始めは腕をガッチリつかんで誘導しますが、徐々に誘導するために加える力を控えていきます。

 最後に、「永久プロンプト」について述べます。
 プロンプトの基本は徐々になくしていく(フェーディング)ことですが、日常生活の中で残しておいて使うプロンプトもあります。例えば、スケジュールや調理のレシピなどですが、これらのことを「永久プロンプト」と言います。
 「永久プロンプト」の意義ですが、全てのプロンプトを取り去って健常者と同じように生活することをゴールにするのではなく、「永久プロンプト」付きでの達成をゴールとして設定することで、達成を容易にし、指導を効率的に進めることができる点にあります。
 何を「永久プロンプト」にするかは本人の障害特性によって決めますが、この考え方はTEACCHにおいて典型的に見られるものです。

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