PRTについて

DTTに基づきながらも、支援の場としての日常環境を設定して、子どもの自発的な行動に焦点を当てながら支援を進める様々な方法が開発され、その効果が実証されてきています。例えば、日常的で自然な強化によって発達の中核となる行動を伸ばしていく「機軸行動発達支援法」(Pivotal Response Treatment:PRT)、PRTを基に指導カリキュラムを発展させた「アーリースタートデンバーモデル」(Early Start Denver Model:ESDM)、日常環境の中に支援機会を数多く設定し、行動を促進する「機会利用型指導法」(Incidental Teaching:IT)などです。これは、DTTに比べて、子どもの興味に沿う形で指導・支援を進めていくもので、遊びなどのより自然な場面で実施されることによって、効果を上げています。

ここでは、次に、最初にDTTから発展してきたPRTについて、解説します。PRT(機軸行動発達支援法)は、ABA(応用行動分析)と発達的なアプローチの手続きを用いた包括的なサービス提供モデルであって、米国学術研究会議(National Research Counsil:NRC)によって認定された10あるASD児のための包括的モデルプログラムのうちの1つです。PRTは1970年代にロバート・L・ケーゲルとリン・カーン・ケーゲル、及びシュライブマンらによって開発されました。

PRTは、子ども中心、自然な環境での介入、家族の参加、機軸(pivotal)領域への介入、を基本としていて、子どもの日常生活の自然な文脈の中で学習の機会を提供することを目的とし、家族が子どもの活動全体に対して、一日中介入できるように両親を指導することにも焦点が当てられています。

機軸領域とは、ASD児がより広範囲にわたって機能的に学習するために必要不可欠な中核となる領域を指し、一つひとつの行動の学習に取り組む代わりに、機軸領域に焦点を当てて介入を行うのです。機軸領域には、動機付け、対人的やりとりの開始、多様な手がかり刺激(multiple cues)に対する反応性(例えば、複数の要素を持つ刺激の弁別)、自己管理、共感、の5つがあります。このPRTのストラテジーは、ESDMの中核要素にもなっています。

さて、次にPRTとDTTの相違点について、説明します。この2つはいずれも、ABAに基づいた介入技法の代表的なものですが、両者の基本的なメカニズムは共通しており、「行動」を単独ではなく、「どのような状況で」(Antecedent:先行事象)→「どんな(適切な/問題)行動が起き」(Behavior:行動)→「その結果どうなったか」(Consequence:結果事象)という3つの枠組みで捉えるのです。この枠組みは「三項随伴性」と呼ばれますが、応用行動分析学ではしばしば「ABC分析」と言い換えることが多いのです。つまり、子どもがなぜこのような行動を起こすのか?ということを、その行動の前後関係からきちんと理解することが、適切な働きかけに繋がり、適切な行動の形成ならびに不適切な行動の減少に繋がるという基本的な考え方は、共通しているのです。

では、両者はどこが違うのでしょうか?それは、前述したABCの内容の違い、及び重点を置く標的スキルの違いとして捉えることができます。すなわち、先行事象(A)に関しては、DTTでは課題以外の刺激を取り除いて、課題に注意が向きやすいような、より構造化された指導場面(例えば、子どもとセラピストは机を挟んで対面して椅子に座る)を設定することが多く、セラピスト主導の介入を行うのに対して、PRTでは様々な玩具などを配置した自然な遊び場面を設定して、子ども主導でセラピーを進めることが多いのです。更に、行動(B)に関しては、DTTでは子どもの反応(行動)は予め設定されているのに対して、PRTでは予め設定せずに、子どもの行動をよく観察し、どんなことが教えられるのかを判断して、子どもが求める反応をその場で決めます。そして、結果事象(C)に関しては、PRTでは課題に直接関係があって、子ども自身の動機付けが関係している強化子が与えられるのに対して(例えば、子どもが車の玩具を欲しがっている場合、子どもが「車ちょうだい」と言えば、その玩具を与える)、DTTで使用する強化子は必ずしも課題に関連していなくてもよいのです(例えば、「車ちょうだい」と言うことが目標である場合、それができたらお菓子が貰えるなど、その場の文脈に関係していなくてもよい)。更に、DTTでは、子どもに獲得させたい課題を繰り返し試行するのに対して、PRTでは一定間隔を開けることが多いのですが、これはPRTでは課題の選択権は子どもにあるため、同じ課題をまとまって繰り返し試行することが難しいからです。

以上のように、PRTではこのような自然な場面において、自然な強化子を用いて指導を行うことによって、獲得したスキルが日常生活に般化しやすいように計画されているので、機軸となる行動を指導の対象とするのに対して、DTTでは特定の行動やスキルの獲得を対象とすることが多いのです。ということで、PRTとDTTではかなり違いがあるのですが、いずれかの二者択一で介入技法を選択するのではなく、それぞれの技法の特徴をよく理解して、目的に応じて使い分けることが重要です。すなわち、モチベーションを抱きにくいトイレットトレーニングなどの自助スキルの獲得についてはDTTを使用し、対人コミュニケーション行動や遊びスキルの獲得についてはPRTを使用するなどです。子どもの注意力や興味、学習態勢に合わせ、目的に応じて子どもが最も学習できる指導環境を設定し、療育・教育を進めていくことが肝要です。

PRTではないのですが、比較的似通っている「機会利用型指導法」(Incidental Teaching:IT)の動画を紹介します。
https://youtu.be/yzgC9ZPzot8

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