一言に「問題行動」と言っても、人によって、その捉え方は様々です。そのままでは「問題行動」の定義が抽象的なので、共通した一貫性のある対応や、それに基づく記録をとることができません。そこでまず最初に行うべきことは、問題行動を“できるだけ具体的に記述する”ということです。そのためのコツは、誰が聞いても理解できるような記述を心がけることです。例を挙げてみましょう。
「パニック」をよく起こす→これでは抽象的で、人によってそのイメージする内容は様々になってしまいます。そこで、その「パニック」の中身をより具体的に書き出します。例えば、「道路に飛び出す」「奇声を上げる」「自分の頭を叩き出す」など、誰もが同じイメージを持つことのできるように記述するのです。
問題行動の具体的な定義ができたら、次にやることはその記録です。記録の方法にはいろいろなものがありますが、まず初めに使われることが多いのは「ABC記録」です。これは「ABCフレーム」(別項「ABAに基づく子どもの指導原理」参照)の形式に基づいて、その問題行動が、いつ、どんな時に生じ、どのような結果になっているのか、ということ(三項随伴性)を記録していくものです。このような記録をとることで、どんなことがきっかけとなって問題行動が生じ、どんな結果によって強化されているのかを推測することができるようになります。そうすると、大人の側の心構えもできて、機動的な対応がとりやすくなり、また子どもの行動を落ち着いて観察できるようにもなります。
それでは「行動の記録」(ABC記録法)の例をお示しします。
時間 | A 事前のできごと → B 行動 → C 結果 |
---|---|
8:00 | 着替えが遅いので注意して促した → 頭を叩く → 間に合わないので着せてやる |
8:20 | 車のキーを親が開けた → 頭を叩く+奇声 → キーを渡して自分で開けさせると納得した |
このように行動の記録をとることで、原因と対応策が明確になるのです。
さて、記録をとってみて原因が見えてきたら、次にすべきことは“起こさなくてすむ事前の準備をすること”です。問題行動への対応で最も重要なことは、問題行動を起こさなくてよい事前の準備を整えておくことなのです。いくつか、その例を挙げてみましょう。
・外出先が自分の思っていたところと違っていたために、暴れてしまうというケースの場合、出かける前にあらかじめ視覚的に写真を使って行き先を告げておいたり、できれば本人に行き先を選択させることで対応します。
・何をしたらいいのかわからない時や暇な時に暴れてしまうというケースの場合、スケジュール表を使ってすべき活動を明示したり、できればいくつかの活動の中から自己選択させることで対応します。
それから押さえておくべきこととして、子どもは24時間365日いつでも問題行動を起こし続けているわけではないということがあります。このことから、「問題行動を起こしていない時に注目してやってほめる」ということは、とても大事なことなのです。特に、問題行動の機能が注目要求(別項「困った行動の理解と対応」参照)などの意味を含んでいる場合は有効です。
もう一つ忘れてはならないことは、問題行動を抑制するだけではうまく対応できないということです。問題行動には必ず「機能」があります。特に、コミュニケーションとしての機能を果たしていることが多いのです。そこで、本人の達成しやすい、望ましい行動(これを専門的には「機能的に等価な代替行動」と言います)に置き換えていくことが大切です。ここでのコツは、問題行動に代わる望ましい行動(機能的に等価な代替行動)が生じた時には、ほめてやったり、要求をかなえてやったりすることで強化することです。それと同時に、不適切な行動には対応しない(すなわち、「消去」です)ようにするのです。このやり方を専門的には「分化強化」と言います。
一つ、例を挙げてみましょう。「水遊びがしたくて、風呂場に行くことを禁止されると自傷行動をしてしまう」というケースの場合、「自傷行動をすることでは、水遊びは許可されない」という対応が重要になります。しかし、それだけ(消去)だけではうまく対応できない場合が多いのです。そこで例えば、自傷行動の代わりとして、簡単にすぐできる手伝いをさせて、そのごほうびとして水遊びを一定時間認めるようにするのです。つまり、自傷行動に代わる機能的に等価な代替行動として、お手伝いという望ましい行動を教えるということです。さらに長期的には、水遊び以外の余暇場面を設定したり、余暇の過ごし方を練習することも有効な手立てとなります。
問題行動への対処として、“余暇を教える”ことはとても有効な手段です。一人で余暇を過ごせることは、大人になるにつれて大切なスキルになっていきます。一見意味のない「こだわり行動」のように見えても、本人にとっては、クールダウンや大切な余暇活動になっていることもあります。今持っている、本人にとっての余暇を認めたり増やしていくことは、教育・療育における大切な長期的な課題になります。
問題行動の機能が「注目」や「要求」の場合、代わりになる望ましい行動を自発したとしても、常にそれをかなえることはできないものです。例えば、「夜中に遊園地へ行きたい」といっても、それは無理な注文です。そこで、要求が今すぐに満たされなくても、トークンやカレンダーなどの支援ツールを使うことで我慢できるという自己コントロールの力を養っていくことも重要なことです。
ここまで、問題行動に対する“前向き”の対応について述べてきましたが、それでもうまく行かなくて、子どもが強いかんしゃくを起こしてしまうこともあります。最後にそういう場合の対処の仕方について、解説します。
強いかんしゃくを起こしている最中は身体が緊張し、感覚は過敏になっています。そんな時に大人が感情的に叱ってみても、かえって興奮を助長してしまいます。まずは、大人自身が頭を冷やす(クールダウンする)ことが大事です。その上で、子どもも落ち着いてから、理由を説明したり問いかけたりしましょう。
かんしゃくを起こす理由にも様々ありますが、要求がかなわずに強いかんしゃくを起こしている場合に、そのまま子どもの要求をかなえてしまうと、かんしゃくを強化することになってしまいます。こういう場合は、大人と子どもの双方が歩み寄れるように仕切り直すことがよいでしょう。
また、与えた課題を拒否して強いかんしゃくを起こしている場合には、そのまま課題を引っ込めてしまったら、子どもはかんしゃくを起こせば課題がなくなるということを学習してしまい、かんしゃくを強化して余計にひどくなってしまうことになります。そこでこういう場合の対応としては、課題の難易度を下げたり、ヒントを与える代わりに、子どもにも少しだけ頑張らせて課題に取り組ませます。そして、その上で達成できたら、心を込めてうんとほめてあげる(すなわち、強化する)のです。
かんしゃくを収拾させる過程には、本人なりの独自のやり方があります。そういう自分で気持ちを落ち着ける方法(コーピングスキル)を会得させていくことも大切です。