アーリースタートデンバーモデル(Early Start Denver Model:ESDM)は、生後12ヵ月前~4歳までの乳幼児に対する総合的な早期介入を有効にするために開発されたもので、もともとは、生後24ヵ月~60ヵ月までのASD幼児のために開発されたデンバーモデルをもとに、さらに幼い子どもに適用することを目的に再開発された応用改良版という位置付けです。このため、3歳までの乳幼児への介入を考える際にはESDMを使い、それより年長の就学前の年齢範囲の子どもへ適用する場合には、オリジナルのデンバーモデルを使う必要があるのです。
ESDMはいくつかの異なるアプローチが複合的に組み合わさって構成されており、基盤となっているのは、1981年に始まったロジャース(Rogers,S.)らによるオリジナルのデンバーモデル、自閉症における対人関係発達モデル(Rogers & Pennington,1991)、社会的動機付け障害モデル(Dawson et al.,2004)、そして機軸行動発達支援法(PRT)であり、これらを統合した乳幼児期という発達期に限定した発達支援アプローチなのです。
ESDMは、ABAとPRTを指導方略の基盤としています。大人(セラピスト)が子どもの対人相互交流に向き合うことによって指導を開始するので、その指導方略には、ABAの原理を用いているのです。また、シュライブマンとケーゲル(Schreibman & Pierce,1993;Koegel & Koegel,1988)らによって開発されたASD向けの指導法であるPRTも取り入れているのです。PRTの技法は、子どもと大人が交流し、何度も学習の機会を持てるように組み立てられ、子どもの動機付けを最適化するように開発されているということは、別項で解説した通りです。
ESDMでは、自閉症をあらゆる発達領域に実質的に阻害を及ぼすものとして捉えています。そのために、指導においては全ての発達領域にアプローチするべく、独自の「ESDM発達カリキュラム」(生後9ヵ月~48ヵ月向け)を持っています。ESDMで特に重視している領域は、模倣、非言語的コミュニケーション(共同注意を含む)、言語的コミュニケーション、社会的発達(情動共有を含む)、遊びの5つです。アセスメントを丁寧に行い、一人ひとりの個別指導プログラムを立てる際には、この「ESDM発達カリキュラム」の全領域について指導目標を設定する必要があります。
ESDMの療育効果は、厳格なRCT(ランダム化比較試験)で実証されていて、エビデンスのある指導法の一つです。ミューレン早期学習尺度、ヴァインランド適応行動尺度、ADOSなどによって測定された結果は、ESDMを受けた群(ESDM群)の方が地域の伝統的な療育を受けた群(地域療育群)に比べて、有意に言語発達の促進と適応行動の改善が見られました。更に、フォローアップ研究の結果では、ESDM群の方が適応行動の向上が見られ、また、ADOSスコアが減少していたことから、自閉症の中核症状の改善も示されました。
最後に、ESDMの紹介ビデオを載せます。
https://youtu.be/5m_cJQQVieU