JASPERについて

Ⅰ JASPERとは

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のConnie Kasari教授らが自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)の子どもへの介入方法として開発した早期療育プログラムです。名称の由来は、Joint Attention(共同注意)・Symbolic Play(象徴遊び)・Engagement(相互的な関わり)・Regulation(感情調整)の頭文字からとったものです。Naturalistic developmental behavioral intervention(自然な発達的行動介入)の一派であり、これらは子どもにとって自然な文脈の中で発達支援を行っていくやり方です。

JASPERのセラピーは遊びの形態で行われ、共同注意・象徴遊び・相互的な関わり・感情調整に焦点を当てることで、ASDの中核的障害である「対人コミュニケーション」の障害の改善を目指しています。具体的には、他者と関わりやすい「遊びの場」を設定し、「共同注意」や「要求行動」を促進しながらその多様性を増やすと同時に、「相互的な関わり」の中で他者へ自発的に関わっていけるように、またその関わりを維持できるように支援していきます。さらに、「遊びのスキル」も向上させていき、ASDにおいて苦手とされる「象徴遊び」を育てていきます。対象年齢は1歳台~小学生くらいまでで、比較的幅広い年齢層に適用でき、個別のセラピーだけでなく、家庭で保護者が実施する、幼稚園や小学校で教師などによって実施されるなど幅広い場で進められています。

Ⅱ 他の早期療育との相違点

特にアメリカでは、いろいろな早期療育の方法があります。例えば、ABA(応用行動分析)の原理や手法を用いたものだけでも代表的なものを挙げると、「DTT」(Discrete Trial Training)、「PRT」(Pivotal Response Treatment)、PRTに発達理論を統合した「ESDM」(Early Start Denver Model)など、さらに「構造化」を中心とする「TEACCH」やそこから派生した子どもの適応行動への支援を強調したコミュニティベースのプログラム「FITT」(Family Implemented TEACCH for Toddlers)などがありますが、これらとJASPERとはどこが違うのでしょうか?

まず、基本的にこれら既存の療育方法と比べて、JASPERは「子どもへのより自然な働きかけを目指している」ことが挙げられます。例えば、DTTに対しては「子どもの主体性をあまり尊重していない」という批判的な意見もありますし、PRTやESDMは「子どもの主体性を大切にし、子どもの選択する活動を中心に治療的介入を行う」ものの、その根底には「治療者の設定した標的行動があって、その標的行動を子どもがした場合に報酬を与える」、すなわち「行動への報酬(強化子)」が用意されているところがJASPERとは異なると言われています。

このことをもう少しわかりやすく述べると、JASPERでも子どもが適切な行動をした場合にそれを大人が真似る(imitation)ので、確かにそれも「報酬」と見なすことができるかもしれませんが、PRTやESDMのようにそれは大人が決めた明確な標的行動ではないのです。さらに、大人が子どもの真似をすることは、子どもにとっては大人に対して「主導権」を握ったという意識を持つことに繋がり、そのことが子どもの「自尊心」や「自発性」を高める働きをしているのです。

また、JASPERがいち早く幼稚園や小学校という子どもの「生活の場」に応用されてきたことも、ASDの子どもの困難さの一つである「般化」についても大きなメリットがあると言えるでしょう。このことはTEACCHと異なっているというよりも、それは元来「学習の枠組み」(構造化)なので、その枠組みの中でJASPERが行われているとも言え、相互に補完的な関係とも言えるでしょう。

この「般化」の問題に関しては、他の早期療育プログラムが専門家が療育的介入を行った後に日常生活において学んだスキルを「般化」するというものが多いのに対して、JASPERではコミュニティベースで、また非専門家である教師等が行える早期介入として注目に値するのです。こうして、JASPERでは乳幼児期から小学校低学年期まで比較的幅広い期間にわたって連続的に使用でき、保育園・幼稚園や小学校という実際に対人コミュニケーションを必要とする生活の場において教師が実施することにより、心理士などの専門家がセラピールームで行うのと同じくらいの言語発達や社会性の発達が見られたとも報告されています(アメリカの場合)。(続く)

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