DTTについて

1950年代以降、応用行動分析は、重度の知的障害を伴うASD児の療育に大きな実績を示してきましたが、この中で開発された効果的な教授法の一つが、DTTです。

DTTにおいては、ターゲット行動をセラピスト(主にスーパーバイザーレベルの心理士)が決め、一定時間集中して机に着席してマンツーマンの指導を行います。指導法は、セラピストからの明確な教示(例えば「これの真似をして」「これは何?」など)や教材提示がなされて、正反応に対しては強化し、誤反応や無反応に関しては系統的なプロンプト(介入方法)が提示されて、学習を促します。

DTTは、スキルの向上、コミュニケーションの増加、問題行動の軽減などを目的としていて、ASD幼児や知的障害を併存するASD、あるいは、行動障害のあるASD児者に適した指導方法として、多くの支援法の中に取り入れられています。

DTTは、その基盤を行動主義心理学においていて、オペラント条件付けによる行動形成がその原理です。従って、「刺激(Stimulus)」と「行動(Behavior)」に着目して、先行刺激(Antecedent stimulus:A)→行動(Behavior:B)→後続刺激(Consequent stimulus:C)のABC(これを「三項随伴性」といいます)を一つの単位として取り出し、刺激のAあるいはCを調整することで、Bすなわち行動を変化させていくわけです。

このABCの単位(「1トライアル」とか「1ラーンユニット」といいます)を短い間(休憩)を挟みながら何度も繰り返すことによって、スモールステップで学習を進めます。例えば、「コップ」という名前を教えたい場合は、A:コップが提示される→B:子どもが「コップ」と言う→C:「よく知ってるね」と褒められる、という単位を繰り返すわけです。増やすべき標的行動を、予め適切な反応(正反応)として決めておくのと同時に、不適切な反応(誤反応)の定義もしておきます。例えば、表出言語指導の場合、セラピストの示す絵カードに描かれているものを正しく言うことができれば正反応、それ以外の名称を答えたり、絵カードに手を伸ばすなどの他の行動であれば誤反応と決めておくわけです。正反応を引き出すプロンプト(介入方法)についても、予め決めておきます。設定した行動について、一定の学習基準、例えば10試行中8回正反応で合格などと決めておいて、その基準に到達するまで試行を繰り返します。

実際に、DTTを進める上では、以下の6つの要素が含まれています。
⑴ 環境調整と機能的文脈の設定
 子どもとセラピストとは対面して着席します。子どもの注意を、課題やセラピストに集中させるために、机上や周囲に子どもの注意を引くものは置かないなど環境を整えます。同時に、子どもの適切な参加姿勢を強化し、参加行動を確立します。
⑵ A(先行刺激)
 試行ごとに、課題内容を明確に示します。教示も一貫した明瞭なものにします。例えば、理解言語の指導であれば、子どもの注意を引きながら、「○○を取って」という教示を明瞭に伝えつつ、絵カードや実物を示すのです。
⑶ プロンプトの提示(必要な場合)
 セラピストは、子どもが間違える前に、設定したプロンプトを実施します。
⑷ B(行動)の確認
 子どもの行動を確認します。
⑸ C(後続刺激)
 正反応が現れたら、すぐに強化します。強化には、強化子(反応に随伴して頻度を増加させるために用いるもので、報酬ともいいます)を用います。
⑹ 次の試行までのインターバル
 新しい課題を提示する前に、数秒の時間を置きます。その後、⑴から⑸を繰り返します。

DTTの実施において用いられるプロンプト(課題解決方法を教えるための最低限の介入方法)は、誤学習を防ぐために重要です。ASDの子どもは、一度誤学習すると、それを変更することが難しく、また時間もかかるので、最初から正しい学習を進める必要があるのです。従って、誤反応なくスムーズに学習を進めるエラーレスラーニング(無謬学習、無誤学習)をどのように達成するかが要になります。前述のように、プロンプトを用いて、適切な行動を引き出すわけですが、プロンプトのレベル(段階的な強さ)には、身体ガイダンス、モデルを見せる(モデリング)、指差し(ポインティング)、言語指示などいろいろあるので、適切なレベルのプロンプトを使う必要があります。因みに、TEACCHで用いられる視覚支援も、プロンプトの一つと考えられます。

プロンプトの例としては、例えば、文字の指導の際に、最初は実線のなぞり線を引きますが、次にそれを点線にしていき、更に徐々に点の間隔を開けていくなど、段階的な方法を用います。そして、確実に適切な行動(すなわち、正反応)が成立したら、プロンプトを少しずつ減らしていき、最終的にはプロンプトがなくても適切な行動(正反応)が自立してできるようにしていくわけです。このようなプロンプトの漸減方法を「プロンプト・フェーディング」と言います。

また、適切な行動を強化する際に使う強化子は、好きなもの(お菓子や音楽など)であったり、人によっては褒められることであったりと様々です。セラピストは、事前に強化子となる可能性があるもの(潜在的強化子)を用意して提供するわけですが、それが強化子たりえるかどうかは、それ以降に行動が増加しているかどうかによってしか判断できません。幼児には強化子としてお菓子を用いることがよくありますが、それと同時に褒め言葉を対提示(ペアリング)することで、褒めることが強化子になるように社会的強化へ移行していくことが重要です。更に、その後、徐々に課題を遂行すること自体が強化として機能する「自動強化」に持っていけるように、課題設定を工夫する必要もあります。

一時期、DTTで学んだことが、その他の学習場面や日常生活場面に「般化」しにくい、すなわち応用が効きにくいことが指摘されていました。そこで、現在、北米では「般化」ということが重視されていて、そのため、初期にはDTTで指導しても、スキル習得がなされたら、それを子どもが自然な環境でも使用できるようになるための指導(Natural Environmental Teaching:NET)もプログラム化されています。日本では、これまでDTTが主に実施されてきた経緯があって、般化の困難さが指摘されていましたが、これは技法上の問題とは言えず、事前に子どものニーズや学習スタイルに合わせて、般化を考慮した入念な計画がない状態で実施されてきた結果だと考えられます。

DTTとは実際にはどのようなものか、日本における一例を動画で紹介します。
https://youtu.be/J3iRRGHVQjk

更に、ABAの本場アメリカにおけるDTTの映像も紹介します。
https://youtu.be/7pN6ydLE4EQ

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