約束(少し堅く言うと「行動契約」)を実効性のあるものにするために必要なポイントは、次のようにいくつかあります。
① 約束は視覚化する
② 代わりにどうすればいいのかを明確にする
③ 約束の期間を決める
④ 達成したことを確認する
⑤ 守れた場合のごほうびを決める
⑥ 守れない場合のペナルティを決める
⑦ 子どもの同意を得る
ここでは、その一つひとつについて、解説していきます。
① 約束は視覚化する
これは、聴覚的な情報は消えやすいということと、自閉症児を始めとする発達障害児は視覚的な認知が優れていることが多いという2つの理由から行います。具体的には、約束(行動契約)は図示または文書化するということと、その内容を思い出しやすくするためにリマインダーとして、わかりやすく掲示しておくということが挙げられます。
② 代わりにどうすればいいのかを明確にする
「何をしてはいけないのか」ということだけでは、子どもは具体的に何をしたらいいのかがわかりません。そこで、「代わりにどうすればいいのか」ということを具体的に示す必要があります。この内容は、子どもが理解でき、かつ達成可能なものにすることが大事です。
③ 約束の期間を決める
約束の期間をいきなり長くしたのでは、それを守ることが難しいものです。子どもが確実に守れる短時間からステートして、徐々にステップアップして、長く延ばすことが重要です。
④ 達成したことを確認する
確認する際のポイントですが、誰が、いつ確認するのかということが大切です。この場合、達成基準を設定しておいた方がよい場合もあります。例えば、こまめに達成感を得ることが、モチベーションの維持に繋がるような場合です。
⑤ 守れた場合のごほうびを決める
よくありがちなケースとして、「約束は守れることが当たり前」ということで、守っても何の得(強化)も得られない場合があります。これでは、子どものモチベーション(やる気)が下がってしまいます。約束を守ることで、“得をする”体験を積み重ねることを通して、約束を守る行動を増やす(強化する)のです。
⑥ 守れない場合のペナルティを決める
よく用いられる方法はトークン(ポイント)を撤去する方法で、これを「レスポンスコスト」と言います。これを進める上で注意すべき点は、達成基準を厳し過ぎないようにするということです。なぜかというと、一度失敗しただけで約束自体を放棄してしまう危険性があるからです。
⑦ 子どもの同意を得る
これが最も重要なことですが、約束(行動契約)は必ず本人の納得や同意の下で取り交わすということです。大人からの一方的な押し付けはうまく行きません。①と関連して、行動契約表を作って、双方で署名しておくと効果的です。
次に、トークンエコノミーについて、解説します。
トークンとは「代用貨幣」のことなのですが、それははじめはそれ自体、価値を持っていません。しかし、トークンと実際に価値のあるものを交換できることを積み重ねる(すなわち、学習する)と、はじめは無価値なトークンでも価値を持ってきます。この場合、トークンには、次に挙げるように“具体的で与えやすく、貯めやすいもの”なら何でもなりえます。
✔ シール
✔ スタンプ
✔ チップ(コインなど)
✔ チェックマーク(花丸など)
✔ パズルのピース
トークンエコノミーを進めるにあたって重要なものは「バックアップ強化子」と言われるものです。これは、はじめ無価値なトークンを集めると、それと交換できる実際に価値のあるもののことで、具体物、活動、特権、名誉などいろいろなものがあります。ここで注意しなければならないことは、“価値のあるものは子どもによって異なる”ということです。従って、個々の子どもに合わせて、実際に強化子としての効き目があるかどうかを探って、調整する必要があるのです。
トークンとバックアップ強化子は、実際に交換できることを通して初めて意味を持ってくるわけですが、この場合の交換比率には結構気を遣います。例えば、集めるべきトークンの数が少な過ぎる(つまり、簡単に集まってしまう)と、トークンエコノミーの意味がなくなるし、一方、初めから集めなければならないトークンの数が多過ぎる(つまり、集めるのに苦労する)と、やる気(モチベーション)が下がってしまいます。子どもの理解度にもよりますが、3~5個くらいから始めるのが無難でしょう。なお、このトークンエコノミーのシステムの意味が理解できるのは、精神年齢で3歳くらいからと言われています。
さて、このトークンエコノミーの意義ですが、望ましい行動を増やしたいときには、その行動の直後に褒める(ご褒美を与える)ということが原則(即時強化)ではあるものの、現実的には(例えば、授業中や集団場面などでは)それが難しい場合があります。そういう場合に、後でご褒美を与えることを知らせる(思い出させる)リマインダーとして、トークンは機能するのです。
では、実際にトークンエコノミーを進めるための手順について述べます。
① 強めたい(伸ばしたい)行動を明確に決める
② トークンの種類を決める
③ バックアップ強化子を決める
④ どのようなタイミングでトークンを与えるかを決める
⑤ トークンの交換比率を決める
⑥ トークンを交換する時間と場所を決める
⑦ レスポンスコストを使うかどうかを決める
手続きのそれぞれについて、解説します。
① 強めたい(伸ばしたい)行動を明確に決める
トークンエコノミーの目的は、子どもの望ましい行動を強める(伸ばす)ことです。そこで、望ましい行動は何なのかを、できるだけ具体的に決めておく(定義する)必要があるのです。こうすることで、一貫してトークン強化を実行できるのです。
② トークンの種類を決める
具体的で(つまり、子どもにとってわかりやすく)与えやすく、貯めやすいものなら何でもよいのですが、それを与える支援者以外からは手に入れられないものである必要があります。特に注意すべきことは、偽造や盗みによって手に入れることがないようにすることです。
③ バックアップ強化子を決める
子どもにとって価値のあるものなら、具体物、活動、特権、名誉など何でもよいのですが、それは子どもによって異なることに注意が必要です。従って、何が強化子として機能するか、個別に探って、調整する必要があるのです。
④ どのようなタイミングでトークンを与えるかを決める
はじめのうちは望ましい行動に対して、連続して与えるとよい(連続強化)のですが、の母間しい行動が定着してきたら、徐々に間引いていきます(間欠強化)。その方がその望ましい行動が定着しやすく、また、なくなりにくくなるのです。もう一つ留意すべきことは、トークンエコノミーの導入初期には、子どもに十分な数のトークンを獲得させるようにして、価値のあるバックアップ強化子との交換を実際に体験させるということです。そうしないと、トークンはいつまでも無価値なままになってしまいます。
⑤ トークンの交換比率を決める
初めからレベルが高過ぎると、モチベーションが上がりませんし、反対に簡単に得られすぎると、バックアップ強化子の価値が下がってしまいます。両方のバランスは子どもによって異なるので、実際に進めながら調整していく必要があります。
⑥ トークンを交換する時間と場所を決める
学校や園でバックアップ強化子を与えることが難しかったら、保護者と協力して、家庭で与えてもらうようにしましょう。例えば、学校でシールを貯めたポイント帳を家に持ち帰り、家で実際のご褒美を貰えるようにします。
⑦ レスポンスコストを使うかどうかを決める
この適用には、「トークンを没収されることが嫌だ」と思うようにならなければ意味がありません。つまり、トークンに価値を感じるようになってから導入します。ところで、このレスポンスコストを導入するにあたって、注意すべきことが次のようにいくつかあります。
✔ 無計画に没収してはいけません
没収する条件を決めて、子どもにわかるように伝えます。
✔ 全部没収することもよくありません
失うものがなくなれば、問題行動に歯止めが効かなくなってしまいます。
最後にアメリカのものですが、不連続試行法(DTT)においてトークンエコノミーを使っている動画があったので紹介します。1試行ごとにトークン1枚をボードに貼っていき、10枚貯まったところでバックアップ強化子のタブレットと交換している様子が見られます。
https://youtu.be/_W-xICvTyHE