「アセスメント」(Assessment)という言葉はもともと、環境や製品管理、人事などで使われてきたもので、「評価」とか「査定」と訳されることもあります。しかしこの訳語は、人を対象とした学校教育で使われる場合には、その概念を的確に言い表しているとは言えません。人を対象とする場合のアセスメントの定義は、「検査や面接などによって、定められた機能を測定・評価して、その結果を総合的に解釈し、そこから作業仮説を立てるプロセス・手続き」となるでしょう。つまり、「査定」という言葉はこの概念の前半の部分を指していますが、後半の「作業仮説を立てるプロセス」というニュアンスは表しにくいでしょう。それゆえに、敢えて日本語訳せずに「アセスメント」という言葉が用いられることが多いと思われます。さらに言えば、学校教育現場においては、「アセスメント」のことを「実態把握」と言うこともありますが、この言葉にも、広義の意味合いが含まれていると思われます。
さて、学校教育におけるアセスメントの目的と条件ですが、「子どもを様々な角度から把握した情報を基に、その子どもの教育的課題を明らかにし、有効な指導・支援の手立てを勘案すること」を目的とし、進められるプロセスです。特に、特別支援教育におけるアセスメントの場合には、「子どもの状態が、ある特定の障害概念に当てはまるかどうか」「特別な配慮を要するかどうか」といった判断を行うことも含まれます。このことを整理すると、次のようになります。
⑴ 子どもの学力、行動・社会的適応、身体発達等それぞれの領域における教育的課題(教育的ニーズ)を明らかにする
⑵ 障害の有無(疾病・障害概念に当てはまるか否か)についての教育的判断を行う
⑶ 必要な教育的対応の判断と決定を行う
アセスメントを行う上で忘れてはならないことは、アセスメントがどんな場合でも、「本人の利益のために行われるもの」であるということです。つまり、実施する側の専門的興味関心を満たすことが目的ではなく、被験者本人への教育支援に繋がるものでなくてはならないということです。
それから、しばしば誤解されることは、「アセスメント=心理検査」というものですが、心理検査はアセスメントの一つのツール(一部に過ぎない)ということも十分に理解しておく必要があります。また、学校教育現場でよく使われる「実態把握」という言葉も、アセスメントとほぼ同義なのですが、厳密に言うとアセスメントの目的は「状態像の把握」だけではないので、実態把握という言葉ももしかするとアセスメントの一部であるということができるかもしれません。
それから、重要なことは、アセスメントというものは、「子どもの能力や特性など、子ども自身を査定・評価する」だけでなく、「子どもを取り巻く環境についても査定して、個と環境との相互作用を総合的に解釈し、そこから作業仮説を立てる」というプロセスが必要だということです。これは効果的な支援を行う上で重要な考え方で、「生態学的アセスメント」と言うことがあります。
「生態学的アセスメント」は、「子どもの生活実態を明らかにしていく作業」を通して為されるのですが、その作業をもう少し具体的に言うと、「その行動をしている子どもが、どのような環境でどのように生活しているのかを徹底的に調査する」ことなのです。例えば、子どもの一日の生活の中で大きなウエイトを占めるのは学校生活ですが、「学校がどのような環境であるのか」「そこで子どもはどのように行動しているのか」などについて、観察や聞き取り、記録などから“徹底的な調査”を行います。この調査の際の緻密さが、実態に迫ることに繋がり、ひいては「効果的な支援を行う準備が整った」と言うことができるようになるのです。
「生態学的アセスメント」が特に有効な分野は、「行動のアセスメント」です。実は、人間の行動をアセスメントすることは、思いの外難しいことが多いのです。例えば、自分自身が言明したことと、実際に行動したことが一致しない場合が多いことは、日々の生活を振り返ってみると明らかです。つまり、言行一致を前提として、言語情報やある種の心理尺度だけの結果から、実際の行動を予測することは難しいのです。そこで、行動のアセスメントの基本としては、可能な限りの「行動観察」と、具体的な「行動の記述」が求められるのです。
さらに言えば、行動を理解することを目的に、一瞬の行動観察をしたとしても、それだけでは理解できないことが多いのです。その理由は、人の行動は刻々と変化するので、一瞬の行動がその人の日常の行動を代表しているかわからないからなのです。そこで、一定の期間や時間にわたる継続した行動観察が必要になるのです。
また、行動が起こるためには、必ずその原因や理由があると考えられます。多くの行動は、その行動が起こる前後の状況(すなわち、周囲の環境との相互作用)の影響によって、以降の起こりやすさや持続しやすさが決まってくるのです。従って、行動の原因や理由を探るためには、まずその行動の前後の状況を注意深く観察することが求められるのです。