NDBIについて

NDBI(Naturalistic Developmental Behavioral Intervention)は「日常環境発達行動支援法」(石塚祐香 筑波大助教)などと訳されることもある、現在世界で最先端のABAセラピーの手法です。これが現れた背景には、①自閉スペクトラム症の診断確定が年齢的に早まってきたこと、②自閉スペクトラム症にはできるだけ早期に介入した方がよいこと、③幼児に特化した介入方法が開発されるようになってきたこと、などが挙げられます。

このやり方の最大の特徴は、行動科学(応用行動分析学など)と発達科学(発達心理学など)が融合しているところで、それゆえに、①自然な環境下で実施される、②子どもと指導者が共同しながら進める、③自然に起こる出来事(偶発的事象)を利用する、④発達にとって適切かつその前提となるスキルを教えるために様々な行動的ストラテジー(方略)を用いる、などの特徴が見られます。

具体的に述べると、ABAに基づく従来の伝統的なセラピー(行動介入)が多くの場合、DTTに見られるように“高度に構造化された”指導から始まるのに対して、より“自然(主義)的”なアプローチや子どもの自然な発達という方向性を利用した行動的介入が為されるところに特徴があるということになります。例えば幼児への介入では、①遊びや日々の日課などのより自然かつ子どもと指導者が双方向的な社会的文脈の中から開始する、②子どもが好む教材を用いるなど、「子ども主導」の指導戦略で進める点です。

NDBIが登場・発展してきた背景には、DTTを代表とする「高度に構造化された介入」の持つ弱点に対するアンチテーゼが存在します。DTTは新しいスキルを獲得させるための指導には効果的ですが、反面、①新しく学習したスキルを複数の環境や状況にわたって「般化」することが難しい、②「逃避・回避」機能に基づく行動問題が生じる可能性がある、③子どもからの自発性に乏しい、④プロンプトに依存しがちになる、といった問題も指摘されてきました(Schreibman, 2005)。これはDTTにおける一般的なアプローチが、例えば言葉を教える際にまず言葉の模倣という「反応形態」(トポグラフィー)を教えてから、その後に発した言葉の意味を教えていくという流れをとることが前述した弱点を助長しているという指摘にも繋がっています。

しかしながら、ここまで述べてきたことは決してDTTを否定しているわけではありません。NDBIが開発された重要なきっかけは、DTTが先に効果を上げ成功していなければ生まれなかったことでしょう。むしろその成功の裏にある限界に気づいたからこそ、新たなやり方が生まれてきたのです。実際、DTTに基づいた介入を行う現代の研究者や臨床家の多くは、NDBIから得られた知見を取り入れています。例えばDTTに特徴的なアプローチに「マストライアル」(集中的試行)がありますが、その使用を控えて他の指導戦略を積極的に取り入れている人もいます。ここで大事な視点は、“NDBIか、DTTか”という二者択一の対立的構図ではなく、「どのような子ども」に対して、また「どのようなスキル」にとってどちらのアプローチがより有効かということを明らかにしていくことでしょう。