発達に遅れや偏りがある子どもの特性としては、次のようなことが挙げられます。
① 周りからの働きかけや刺激を受け止める力が弱い
② 周りからの働きかけに応える力が弱い
③ 周りに働きかける力が弱い
このような特性ゆえに生じる困難さとしては、その場にふさわしい適切な行動がうまくできないために、どうしてよいかわからない状況に措かれた結果、これまでに身に付けた(すなわち、学習してきた)やり方や表現で対処するしかないということが挙げられます。
つまり、行動問題の本質は、発達障害からくる“やりにくさ”ゆえに、その場にふさわしい適切な行動がとれないことで、それゆえ対処法としては、子どもが持っている力を活かした適切な行動を育むことに尽きます。
行動問題が起きる理由を理解する枠組みは、ABCフレーム(「ABAに基づく子どもの指導原理」参照)で整理できます。すなわち、「どんな状況・場面(きっかけ)」→「どんな行動」→「どんな結果が得られる/避けられる」という一繋がりで、これは「先行事象(A)」→「行動(B)」→「結果事象(C)」の三項随伴性に対応しています。
ところで、行動問題が起きる主な原因としては、次の4つが挙げられています。
① 注目の獲得
② 嫌悪事態からの逃避
③ 物や活動の獲得
④ 感覚や刺激の獲得
それぞれの働き(専門的には「機能」と言います)を、前述した3つの枠組みで説明すると、次のようになります。
① 注目や関わりが少ない状況で、その行動を起こすと、周囲の人の注目や関わりを得られる
② 嫌なことがある状況で、その行動を起こすと、その嫌な状況がなくなる/避けられる
③ 欲しい物が手に入らない/したいことができない状況で、その行動を起こすと、それが得られる
④ その行動がもたらす感覚や刺激を楽しむ
これを図式的に表すと、次のようになります。
① 注目の獲得
「注目や関わりが少ない状況」→「困った行動」→「注目や関わりが得られる」
② 嫌悪事態からの逃避
「嫌なことややりたくないことがある状況」→「困った行動」→「嫌なことがなくなる」
③ 物や活動の獲得
「欲しい物が手に入らない/したいことができない状況」→「困った行動」→「欲しい物が手に入る/したいことができる」
④ 感覚や刺激の獲得
「することがない状況」→「困った行動」→「感覚や刺激を得る」
さて、それぞれの困った行動への対応の基本ですが、別項(「ABAに基づく子どもの指導原理」)で述べたように、基本的には「強化」と「消去」で対応します。具体的には、次のように対処します。
① 「注目の獲得」の場合
注目しない(声もかけない)、関わらない(放っておく)
② 「嫌悪事態からの逃避」の場合
嫌なことから逃れさせない(手伝ってでも、少しでもよいので、やるべきことはやらせる)
③ 「物や活動の獲得」の場合
欲しがる物や活動を与えない(得をさせない)
④ 「感覚や刺激の獲得」の場合
社会的に認められるような他の活動に置き換える
さらに、行動問題が起きる状況や場面から考える配慮や工夫としては、以下のように「事前の状況」に注目することで行動問題を起こりにくくする(予防する)ことが挙げられます。
① 子どもへの伝え方を工夫する
言葉だけでの働きかけでは、その場で期待されている行動がわかりにくく、自分でできる行動で対処してしまうことがあります。そこで、言葉かけを工夫する、視覚に訴えることで対処します。
② 環境を整える
子どもが「わかりやすく」「やりやすい」ように、便利な物(支援ツール)を使ったり、位置をわかりやすくすることで、その場にふさわしい適切な行動をとりやすくします。
③ 周囲の子どもへの配慮や工夫
集団の中では様々な活動や遊びが同時に展開して、周囲の子どもとの不適切な関わり合いが生じたりします。そこで、周囲の子どもに対する配慮や工夫を行うことで、行動問題を起こしにくくします。
以上述べてきたように、行動問題はそれが生じる「状況や場面」の中で、必ず何らかの「意味」を持っているのです。従って、行動問題への対処法の基本としては、その困った行動の「意味」をより適切な行動によって果たせるように置き換える、すなわち、「困った行動の代わりとなる適切な行動を育む」ことになります。このことを専門的には、「ポジティブな行動支援」(PBS)とか「競合行動バイパスモデル」とも言います。
子どもの特徴、例えば「障害」特性や性格だから…ということだけで行動問題を捉えるならば、その子どもを“治さない”限り、何もできないということになってしまいます。また、行動問題の表面に現れた形だけを見るならば、行動が起きた後になってからそれをどのように減らすか、どのようになくすかという後手後手の対応にしかなりません。
「どんな状況や場面」で「どんな行動」を起こし、それに対して「どんな結果」が生じているか?と考えることを通して、初めて子どもが示す行動の「意味」が理解でき、予防的対応(前もって起こらないようにする)や積極的対応(代わりとなる適切な行動を育む)が可能になります。
最後に強調しておきたいことは、気になる・困った行動だけに注目していると、どうしてもそれをなくそうという後向きの対応になってしまいます。これでは子どもは、その困った行動の代わりに何をしたらよいのかがわかりません。子どもの興味・関心や得意なことを活かせる機会を捉えたり、意図的に創っていくことが肝要です。前述したPBSの根本的な考え方は、子どもは24時間365日、困った行動をしているわけではなく、大部分の時間は適切な行動をしているはずなので、適切な行動をしている時間を増やせば、自ずと困った行動をする時間は減ってくるというものです。困った行動を効果的に減少させる鍵は、新しい望ましい行動を効果的に指導することにあります!